プロフィール
vol.04東京都在住 (34歳 女性)

某クリニック内科医長

趣 味 : 映画鑑賞、海外旅行、美術館めぐり

はじめに

医学生の皆さん、初めまして。現役の医学生にメッセージを、とのお話をいただき、今回コメントさせて頂くことになりました。私の話が、皆さんの今後に、少しでもお役に立てれば光栄です。

医師を目指した結果 ~ 夢の途中。

 幼少の頃ではっきりと覚えてないが、小学校に上がる前だったと思う。初めて祖母に連れられて病院に行った。当時、祖母は白内障を患っていて、町の開業医から総合病院を紹介されたのだった。
 その病院は、待合室も広く明るかった。大きな窓の外には、よく手入れされた庭園が見え、暖かい春の日ざしをうけて、赤や黄色の花が揺れていた。  名前を呼ばれ、祖母に手を引かれて診察室に入ると、そこには白衣を着た華奢な女性がいた。肌が透き通るように白く、おとぎ話に出てくる妖精のようだった。澄んで穏やかな口調だった。温かい言葉に、祖母も私も幸せに満たされた。
 その日の帰り道、祖母に「私、将来、あんな人になりたい!!」と話したところ、その言葉は、真っ先に両親に伝えられた。そして、医学部へのレールは敷かれてしまった。
 それからは家族の間でも、私が医者になることは暗黙の了解になった。小説家や考古学者、声楽家にも憧れたが、色々なお稽古事も、勉強中心の生活に軌道修正させられた。親の巧みな誘導作戦と、褒められて成果が出る向学心が功を奏し、高校3年の進路決定の際には、淡い憧れとともに何の迷いもなく、医学部を志望していた。

医学生時代の思い出 ~ 大いなる期待。

 女子校育ちで、日ごろから女子に囲まれ生活してきたため、大学は共学に行きたかった。幸運にも、某私大医学部から合格通知が届き、大いなる期待と共に、夢への扉は開かれた。
 入学式に向かう途中、桜舞う坂道で、この6年間は楽しく過ごそうと心に決めていた。
 私達の学年は1学年が100人程度の少人数で、男女比は7:3だった。友達もすぐに出来たし、学年全員が仲良かった。一人暮らしは快適で、自由な時間を満喫していた。医学部には全国津々浦々から、個性豊かな人が集まり、彼らを観察するのも楽しかった。楽しむことに貪欲なので、サークルも1つには決められず、軽音楽部と剣道部の掛け持ちをした。
 軽音楽部は個性派の集団だった。私は歌が好きで、友達とバンドを組んでいた。年に一度の学園祭では、コンサート会場を貸し切りで演奏した。ドラムとボーカルを担当した。派手な衣装を着て、大勢の人の前で歌うのは、快感だった。
 剣道部は、軽音楽部とは正反対の、爽やかで凛々しい先輩たちが多かった。女子は少なかったから大切にされた。真面目でカッコイイ先輩たちに優しくされて、毎日がバラ色だった。色んな恋もした。たくさん笑って、たくさん泣いた。毎日が充実していて、1日が24時間でも足りないくらいだった。

国家試験のエピソード ~ 自由と孤独の癒し方。

 5年目で病棟実習が始まると、実際の医療現場を体験し、医者になる自覚も生まれてくる。病棟実習は朝が早いから、夜遅い飲み会の誘いも、無理な夜更かしも出来なくなる。自然と自分の健康管理に気遣うようになる。実習先が自分に合うかどうか、シュミレーションし、試行錯誤する。定期テストも難しくなり、机上の学問と現実の医療のギャップに戸惑う。自分の未来がその先にある。学生という免罪符を持った、世間知らずの卵だった。
 6年になると、国家試験と卒業試験の2大関門がある。自分が持っている全ての力を、試験日に焦点を合わせ、最高級に高める。講義も少なくなり、自宅学習が否応なく増える。気分転換に、食事に出掛けたり、旅行したりしても気持ちは晴れない。不安を紛らわそうと、予備校の模試を受ける者、視聴覚室でビデオ教材を利用する者、過去問を必死に解きまくる者。誰もが不安と孤独を感じながら、自分との戦いの日々を過ごす。試験1週間前になると、早寝早起きを心掛け、体調管理を万全にする。試験が近づくと、どうにもならない現実が見えてくる。どんなに焦って不安になっても、時間は待たない。その日は必ず訪れる。意を決して、自分を信じてやるしかないのだ。
 当日は早く会場に着き、自分を落ち着かせる。大きく深呼吸する。大丈夫!自分に言い聞かせる。周りも皆、同じだから。リラックスして冷静に。大丈夫!きっとpass出来る!!

研修医の思い出 ~ 理想と現実。

  研修先は付属の大学病院に決めた。専攻も、憧れだった眼科ではなく、解剖で興味を持った外科にした。幅広い知識と技術を、効率よく習得したかったのと、海外ドラマの影響で「女性の外科医」がカッコ好く思えたから。今思えば、すごく軽いノリで決めてしまった。親は当然の如く眼科を選ぶものと思っていたし、当時付き合っていた彼も、専門性を身につけ、独立できた方がよいという理由で、感覚器系(眼科、耳鼻科、皮膚科等)の科を勧めた。だから数ある選択肢の中で、外科、しかも3Kと言われた消化器外科の選択には、唖然とされた。でも、私なら出来る!という根拠のない自信があった。若かったし、勢いがあった。
 実際、研修医として働いてみると、想像以上の忙しさだった。食事や睡眠もまともに取れず、慢性的な疲労と緊張の連続でストレスフルな日々。3日に1度は当直で、1日のほとんどを病院で過ごした。朝からopeの助手、カルテや処方箋を書き、患者の状態チェックと術前術後の検査、ICU管理、救急対応、カンファレンスetc. 毎日が慌しく過ぎていった。理不尽な要求も日常茶飯事だった。立ち止まっている暇は無かった。不自由な生活に情けなくなったりもした。それでも乗り越えられたのは、家族の励ましと同僚の協力、それと誘惑に負けない強い意志。大切なのは、誰かと競争して1番になるのではなく、どんなに辛くても、途中でdropoutせず、無事に研修期間を終えること、と痛感した。

医療における現状の課題 ~ 医者と病院への処方箋。

 「医療崩壊」は今に始まった事ではない。メディアが一斉に報道し、勤務医の過酷な労働状況が周知の事実となった。医療訴訟や、モンスター患者が増え、若い医師が萎縮して、充分に能力を発揮できない、育ちにくい状況にある。原因は様々だが、明らかに言えるのは、今の日本は、医者も病院も疲れきっている、という事。
 今まで日本の医療が成り立ってきたのは、労働基準法を全く無視した労働環境を、従来の医師達が当然の如く受け止め、自分を犠牲にし、どんなに薄給でも仕事に誇りと使命感を持って支えてきたからだ。せっかく念願の医師になり、理想と使命感に燃えていても、改善されない過酷な医療現場に明るい未来は描けない。1人の医者が背負う義務や責任には限界がある。医者も1人の人間だから、人間らしい生活を求めるのも当然かもしれない。
 その場しのぎの応急処置的な行政改革ではなく、長期的な展望、例えば、メタボリック症候群や、ピンクリボン・キャンペーン等の、病気にならない為の予防医学の知識の普及、食育を含めた健康的な食生活の在り方を、もっとたくさんの人に知ってもらう必要がある。永続的で幅広い広報活動を通して、国民一人一人が、自分自身の健康管理に責任を持つ。
 病気にならないこと、それが今の日本の医療を救う、唯一の処方箋なのかもしれない。

医学生へメッセージ ~ 自分が自分であるために。

 医学部を卒業して10年になる。自分の居場所と役割を持ち、生活費も自ら稼ぐようになると、霧が晴れたように視界が開け、自分という人間が見えてくる。あの頃は自分探しに必死で、些細なことに一喜一憂していた。大海を知らない井の中の蛙だった。
 私が今、アドバイスするなら、人生に正解はない。自分が進むべき道に迷った時、取り敢えず心の赴くままに決めてみる。あれこれ余計な事は考えず、心惹かれるものを優先する。たとえそれが間違っていたとしても、学生時代なら、気付いた時にいくらでも、軌道修正できる。自分の意に沿わない結果になったとしても、それはきっとかけがえのない、経験という名の財産になる。回り道したら、いつもの道とは違う、素晴らしい景色や人達に出会えるかもしれない。でもそれも楽しんで受け入れる、心の余裕を持ってほしい。
 「時は金なり」。学生時代は二度と戻らない。毎日を一生懸命生きる。一度しかない人生だから。今この瞬間を、一生懸命生きる。その連続が今日を作る。今日の連続が一年を作り、一年の連続が一生を作り、その人の人生になる。自分を見失いそうな時、立ち止まり問いかける。今の自分は、子供の頃描いた理想の大人に近づいているのだろうか、と。でもきっと、答えはこの先の未来にある。これからも人生は続いていく。人生は選択の連続。大切なのは、今と未来。どんな生き方を選ぶかも自分しだい。前を向いて進むしかない。

終わりに ~ 新しいスタート。

  現代の医療は日進月歩。毎日、知識の更新を余儀なくされる。
 医者になることはゴールではない。ある者にとっては、人生の通過点に過ぎず、また、ある者にとっては新しいスタートでもある。そして、単なる知識や技術の習得ではなく、1つ1つの医療行為への責任も生じる。人間としての度量も試される。
 ただ、これだけは言える。医者は、素晴らしい職業。様々な人との出会いや別れ、貴重な体験を通して、人生とは何かを学べる。人として大きく成長できる。
 希望を胸に、勇気を持って、最初の一歩を踏み出してほしい。きっとその先には、1人1人に特別な、明るい未来が待っている。

このページのトップへ

医学部を卒業された先輩医師の皆様、現役医学生へ向けてメッセージを発信しませんか? 原稿を随時募集しています。どうぞお気軽にお問い合せください。

メッセージの原稿はinfo@igakusei.jp へメールにてお送りくださるか、お問い合せより ご連絡ください。